『大いなる休暇』(ジャン=フランソワ・プリオ監督/ 2003年)
内容紹介と感想
本作は、カナダのケベック州の小さな島を舞台としたコメディ映画。かつては漁業で栄えた島だが、今や衰退し、島民は生活保護で生きている。皆の活力がなくなり、誇りも失い、日々惰性で生活している中、プラスチック容器工場の建設話が持ち上がる。島の低い税率が工場のオーナーを引き付けているが、工場を誘致するには、住み込みの医者を抱える必要があり、その点が最大のネックとなっている。
このような状況下、市長は別の職を得て、島から出ていってしまう。新たに市長となったGermain氏は、医者を確保し、工場を誘致するために動き出す。なんとか、一時的に島にやってきた医者に、島を気に入ってもらい、長期滞在をしてもらうために、嘘の演出を中心としたあらゆる手段を講じていく。島民の一致団結して奮闘するドタバタ劇がおもしろおかしく描かれ、心温まる終盤の展開にも泣かされる。
困難に直面してもあきらめずに頑張ろうと、前向きな気分になれる映画であり、島の寂しくも美しい風景と、個性あふれる島の人々の生き生きとした存在感を、笑いながら堪能できるすばらしい映画だ。
保守的な価値観のポジティブな側面や、工場誘致を通じた町おこしの重要性も描き切っている。
ストーリーは、市長たちが、医者を探すことからストーリーが動き出す。都会の医者のリストを作り、島への勧誘のチラシを郵送する。なかなか見つからない中、前市長の機転のある行動をきっかけに、一人の若い医者が、お試しで一か月間島に来ることになる。島を気に入ってもらえれば、5年間の住み込み契約が成立し、工場誘致の大きなハードルを越えることができるのだ。
そこから、医者に島を気に入ってもらうための様々な「おもてなし」攻勢が、コメディとしておもしろおかしく描かれる。
島民は医者の電話を盗聴し(違法だ!笑)、彼が望んでいることを日々把握して、密かに作戦を練る。クリケット好きな医者のために、経験のないクリケットを島民でやってるふりをしたり、密かに道にお金を置いておき、医者に拾わせたりする。ある島民は、医者が好きな都会的なフュージョン(ジャズ)を(本当は嫌いなのに)一緒に楽しむふりをしたり、レストランは、医者が好きな料理を急いでメニューに加えたりして、偶然を装いつつ(嘘をつきながら)、島民一体となって、医者好みの島を演出する。この、「そんなんあるか!笑」というコメディ要素にあふれた「おもてなし」が、この映画の最大の見どころだ。
一方で、工場のオーナーから別の条件も提示される。島にとっては高額な賄賂の要求や、工場運営に必要な人数(約125人しかいない島の人口より大幅に多い200人必要!)が提示される。これらの要求にも、島の皆が団結して対応していくのだが、泣ける方策や、非現実的だがコメディとして笑える解決策が描かれていく。
ドタバタ劇の末、無事医者を引き留め、工場を誘致できるのか、笑いながら成り行きを見守ってほしい。
印象に残った点
映画を全体を通して最も強く印象に残ったのは、主人公である市長(Germain氏)の「なりふり構わない」奮闘ぶりである。この市長の夫婦も、最初は前市長のように島を出ていくことを検討するも、やはり島に工場を誘致していこうと決意する。皆が生きていけるように、不器用ながらも強い熱意とリーダーシップで、(内容はともかく・・・)具体的なプランを練り、実行し、島民を盛り立てていく。誰よりも危機感をもって、のんびりと「ゆでガエル状態」の島民に、「人としての誇りを取り戻して、フルタイムで働くために頑張ろう!」と奮起させ、率いていく市長の姿が頼もしい。首長たるもの、かくあるべし!と思わせるのだ。
また、あくまでコメディ映画として、医者へのごまかしや、嘘をついたままで終わらせる、というのではなく、嘘をついてきたことへの落とし前をつける展開も胸熱だ。市長は真正面から、ここでも「なりふり構わない」態度をさらけ出す。単にコメディ映画として笑えるだけでなく、感動でき、納得できる映画として成り立たせた点もすばらしかった。
映画全体として、家族やコミュニティ、郷土、労働の大切さを描き、「保守的な価値観」が有する美しい側面を見事に表現している。個人の幸せを追求していく前提として、自分たちが暮らしてきた故郷の活気を取り戻そう、家族や島のコミュニティみんなで豊かになるために努力しよう、という強い意欲が感じられるのだ。また、生活保護ではなく、貧しくとも自らの労働で胸を張って生きていこうという姿勢、それによって、みんなが生き生きと幸せになれるのだという視点もすがすがしい。加えて、工場が建つことによる環境への影響(排水や景観など)は描かれず、「食べていく」という経済面を何より優先させる点も、保守的な描き方といえるだろう。
工場誘致がテーマとなっている点もおもしろい。現実の世界でも、舞台となったカナダに限らず、世界中の国や自治体が工場誘致に血眼になっており、熾烈な誘致合戦が展開されている。新たな雇用を生み出すために、工場の誘致は世界の国/自治体にとって最も重要な任務のひとつといえるだろう。本作品はコメディ映画として、(笑わせるべく)ありえない設定や解決法を中心に描かれているものの、一生懸命「おもてなし」をして、その地域を好きになってもらう(いくつもの課題も一緒に解決していく)という姿勢の部分は、非常によく描かれている。自治体の企業誘致担当者や、町おこしに取り組んでいる方々にもぜひ見てもらいたい作品だ。
一方、この工場のオーナーの視点では、どういう理由でこの島を生産拠点として選んだのか、という点も気になった。映画では、低い税率が理由の1つとして挙げられていたが、物流や製造コスト、規制など、別の側面でも有利だったのだろうか、興味深いところだ。(※ちなみに、北米を中心とした様々な地域のビジネス環境については、「Site Selection」という雑誌に、ビジネス拠点の立地選定の参考になる記事がたくさん掲載されている。)
関連しておすすめの映画
この映画を気に入った方には、「ギルバート・グレイプ」(ラッセ・ハルストレム監督、1993年)という映画もおすすめしたい。この映画も、活力がなく、衰退していくアメリカのスモールタウンを舞台としたヒューマンドラマだ。主人公の青年は、日々家族の面倒を見る義務感に追われた生活を送っている。問題を抱えつつも団結する家族の姿を中心に、キャンピングカーで祖母と自由に生きる女性との恋愛や、地元の人々の濃厚な人間模様が繊細に描かれる。特に、登場人物の「視線」を通して描かれる、「周りの人に丁寧に目を向ける静かな描写」に強く心を掴まれる。
上にも書いたように、「大いなる休暇」では、家族やコミュニティを立て直していく中で、個人の幸福を追求していくという、保守的な価値観や郷土愛が表現されるが、「ギルバート・グレイプ」ではそれとは対照的に、ときに残酷で荷が重い、土地や家族、地元コミュニティの楔から解放され、個人として羽ばたく、若くリベラルな価値観が描かれる。
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