「狩人と犬、最後の旅」映画レビュー・感想:ユーコンの大自然と共に生きる:自給自足の日々と狩猟場の開拓

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『狩人と犬、最後の旅』(ニコラス・ヴァニエ監督/2004年)

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内容紹介と感想

本作は、ユーコン(カナダ)の大自然を舞台に、主人公の初老の男性(ノーマン)が、先住民の女性パートナー(ネブラスカ)と、犬ぞり用の7匹の犬や馬と共に、カナディアン・ロッキーの丸太小屋で送る生活を描く。

ときどき街(ドーソン・シティ)に出かけて毛皮を売り、必要な物資は調達するものの、基本的には、山での狩猟や罠猟、ベリー等の採集で自給自足する生活を送っている。まるで、西部開拓時代に山で生活していた「マウンテンマン」が現在によみがえってきたかのような生活だ。

二人は、大変な日々の生活を営んでいくだけでなく、新たな「トラップライン(罠を設置するエリア:狩猟場)」を探さなければならないという中期的な課題にも取り組んでいく。

 

まず、この映画の素晴らしい点は、カナダ北部の大自然の中で想像できる、あらゆるロケーション、季節(天候)、動植物、乗り物、アクティビティを、これでもかと見せてくれる点だ

まず何よりも、ユーコンの壮大な自然が素晴らしい!ノーマンは、雄大な山々に囲まれた森や湖、川、渓谷を、夏の晴天や、冬の吹雪の中、キャンプをしながら駆け巡る

野生動物の描写もバラエティ豊かで、人々がカナダといって思い浮かべる動物のほとんどが登場する(熊(グリズリー)、狼、ムース、カリブー、オオツノヒツジ、ビーバー、カナダオオヤマネコ、キツネ、ウサギなど)

また、多様な乗り物(犬ぞり、カヌー、馬(乗馬)、スノーモービル、水上飛行機)を駆使しながら荒野を移動し、生活に必要な様々な活動(狩猟、罠の設置、丸太小屋作り、凍った湖面での釣り、毛皮のなめし等)に日々勤しむ。

特に、丸太小屋を作る作業には魅せられた。木を切り倒し、枝を刈り、馬で運び、皮をはぎ、寸法を測って加工し、丸太の壁を組み上げていく。そうして出来上がった小屋の風情が味わい深い。

こういった、北米の大自然の中で生活していくあらゆる側面を味わえるのが、この映画の魅力だ。

 

本作は上記のように、自然の中で生きる人びとを描いたドキュメンタリー的な視点でも楽しめるのだが、ゆるやかながらも求心力のあるストーリー展開や、キャラクター描写も作りこまれており、物語を描く映画作品としても堪能することができる

ノーマンとネブラスカは、日々の生活をこつこつと営みながら、自然と共に生きる充実した日々を送っている。しかし、木材会社の森林伐採によって、これまで利用していたトラップライン(狩猟場)が失われてきており、新たなエリアを開拓する必要に迫られる。新たなトラップラインを探すといっても大変だ。犬ぞりで何日もかけて、トラブルに対処しながら、広大な自然を探索する

つまり、上に書いたような様々な風景やアクティビティは、単に映像美やアクションシーンを見せるためだけではなく、純粋に日々の生活の光景でもあり、新たなトラップラインを探すための行動として描かれている。

この探索の必要性が、物語の求心力としても働き、鑑賞中は、良いところが見つかるといいなーという気持ちで見守ることとなる

 

街での経済活動や遊びも見ごたえがあった。ノーマンは、狩猟でゲットした毛皮を片道2日かけてドーソン・シティまで売りに行く。街では毛皮の価格の推移に関する会話がなされ、売ったお金で、小麦粉や薬、丸太小屋の窓ガラス、銃弾等、最低限の生活物資を買い込む。冬の間は街で馬を預かってもらい、帰りは物資を積んだ水上飛行機で小屋の近場まで送ってもらう。

街では、散髪をしたり、知り合いと酒場で飲み、ラグタイムのピアノに合わせ歌を歌う。ブラックジャックに興じたり、フレンチカンカンを堪能するシーンもある。西部劇かと見まがうような街の様子が生き生きと描かれ、見ているこっちも楽しくなってくる(ネブラスカも連れて来いよー!と思いながら・・・)

 

また、主人公ら2人の人物描写や、二人の生活にとって欠かせない犬の描写も非常に丁寧になされている。

ノーマンは日々の狩猟や次のトラップラインの探索を行い、ネブラスカは皮をなめしたり、小麦粉でパンを作ったりして生活を支える。二人は15年間一緒に生活しており、少ない言葉でお互いが分かり合える、かけがえのないパートナーであることが伝わってくる。不便といえばこれほど不便な生活もないのだが、二人とも自然の中で暮らすことを心の底から愛している。とはいえ、これ以上歳をとってもこのまま暮らせるのかという不安もあり、もうそろそろ町で暮らしたほうがいいのかという葛藤も抱えている

一方で、全編にわたって犬がたっぷりと描かれており、犬が好きな人にも堪らない映画だろう。犬が突発的に巻き込まれるトラブルや、過酷な状況で奮闘する犬たちの様子は非常に心苦しくなるが・・・、健気に日々の仕事をこなす様子や(必死でそりを引き、小さな背中で荷物を運び、狩った獲物を追跡する)、ノーマンと戯れる様子は愛おしすぎる!作中では、ある出来事がきっかけとなり、新しい犬がグループに加わるのだが、その犬をめぐる展開も見ごたえがあった。

 

見ている最中、最初は自然の中での暮らしもいいなーと思うが、次第に冬になり、あまりに厳しく、面倒くさく、不便すぎる状況のオンパレードを目にすると、ここまでして自然の中で暮らしたいのか・・・大変すぎる・・・という気分に変化していく。が、また春になり湖でカヌーを漕ぎだすシーンを見ていると、やっぱり自然の中で生きるのもいいなーという気分になってくる。

あたかも、実際に現地での生活を体験して、気持ちに様々な変化が出てくるようでおもしろい。

 

このように本作は、「北米の大自然を体感したい人」、「アウトドア・アクティビティが好きな人」、「山での自給自足の生活を映画で追体験したい人」にぜひ見てもらいたい作品だ。

 

関連しておすすめしたい本やゲーム、音楽

上に書いたように、本作では丸太小屋を作るシーンが非常に印象的だった。同じように感じた方には、「まんが 新白河原人 ウーパ!」(守村大著)という漫画の1を強くおすすめしたい。著者である守村氏が、山を買って、丸太小屋を建てて生活する過程が描かれているのだが、とにかく全てのエピソードがおもしろい!

限られた予算で、理想の山を探し、下刈りをし、整地し、丸太小屋を建てるという、著者にとって初めての経験が鮮明に描かれており、困難に直面しても何とか解決法を探っていく過程が、知的面でも(具体的なノウハウ満載)、謎解き面でも(どうやって解決する??→こうやるのか!の連続)、気持ちの面でも(一生懸命に、楽しくポジティブ思考で挑む姿勢)非常に読みごたえがある。

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また、「レッド・デッド・リデンプション2」(ロックスター・ゲームス社、2018年、PlayStation 4等)という西部劇ゲームもおすすめだ。この映画に出てくるような大自然や動植物の数々、乗馬やカヌー、キャンプといったアウトドア・アクティビティを、オープンワールドの仮想世界で存分に体感できる。ゲームのストーリー自体は、主人公が属するギャング団がアメリカ政府に追い詰められていくシリアスな内容なのだが、ストーリーを無視して、何日も山の中に籠ることも可能なゲームなので、自宅にいながら北米の大自然を満喫してほしい。

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最後に、作中で主人公が馬で移動する際に効果的に流れる「By The Rivers Dark」という曲もすばらしく、ぜひアルバム単位で聴いてほしい。この曲は、カナダを代表するシンガーソングライターであるレナード・コーエンの「Ten New Songs」(2001年)というアルバムに収録されている。レナード・コーエン特有の大人のムードと、「鎮静効果」のある語り口調をじっくりと味わってほしい。あまりメロディが無いようでいて、じわっとメロディアスな匙加減が絶妙で、(彼の他のアルバムも含めて)僕は読書の時によく流している。心地良く落ち着けるのだ。

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