アメリカの湖水地帯をカヤックで巡るソロ・キャンプ旅。旅の終わりに、憧れの写真家の弟子になれるのか?
Amazon.co.jp: そして、ぼくは旅に出た。 はじまりの森 ノースウッズ (文春文庫) 電子書籍: 大竹 英洋: Kindleストア
『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』(大竹英洋著/2017年)
本書で語られるカヌー・アクティビティ「Potage(ポーテージ)」とは?
カナダやアメリカの一部の地域で人気のある「Portage(ポーテージ / ポーテッジ)」というアウトドア・アクティビティをご存じだろうか?
大小の湖が密集した森林地域で、カヌー(またはカヤック)に乗って湖を渡り、対岸に着いたら、カヌーを頭上に担いで陸路を歩く。
➡ 次の湖に着いたら、またカヌーで湖を渡る。
➡ 夜は湖畔でキャンプし、翌朝またカヌーで出発。
・・・という行程を繰り返して、湖から湖へ、カヌー・ルートを巡るアクティビティのことを、ポーテージという。
下のリンクの地図を見てほしい。これはカナダのトロントの北部にある「アルゴンキン州立公園」(Algonquin Provincial Park)だが、ポーテージでも有名な公園だ。拡大すると、無数の湖が散らばっていることがわかる。
この公園のように、アメリカ北部の一部地域や、カナダ(特にサスカチュワン州より北部・東部全域)には、無数の湖が点在している。それら湖から湖へ巡っていく、数多くのカヌー・ルートが存在し、旅のガイドブックにも様々なコースが紹介されている。
僕のカナダ人の知り合いも、1週間以上のポーテージに出かけて楽しんでいた。森の最深部まで到達すると当然人気も少なくなくなるので、静かな湖を独占して、のんびり釣りをしたりして過ごせるらしい。
本の内容・感想
前置きが長くなったが、このポーテージを主な題材にした旅のノンフィクション本が、今回ご紹介する「そして、ぼくは旅に出た。: はじまりの森 ノースウッズ」(大竹英洋著)である。
舞台は、アメリカ・ミネソタ州北部の、森林に囲まれた湖水地帯。写真家を目指す大学時代の著者・大竹氏は、ふとしたきっかけから、「ノースウッズ」と呼ばれるアメリカ大陸中央北部に広がる湖水地方を、撮影のフィールドにしていきたいと考える。
そこで、アメリカのノースウッズを活動拠点にしている、憧れの有名写真家にアポなしで(!)会いに行って教えを乞おう、という計画を立てた。ナショナル・ジオグラフィックなどで活躍する世界的な写真家だ。しかも、その写真家の自宅付近まで、ポーテージで辿り着こうというのだ。
この本、最初は「アメリカでのカヌー旅の描写を中心とした、よくある冒険本なのかな」くらいの気持ちで購入したのだが、読み進めていくといい意味で裏切られた。
もちろん本の前半は、ポーテージというカヌー旅について、歴史的背景なども含めて、これ以上なく鮮明に旅の様子が書かれている。
例えば、最初にアウトドア専門店で、カナディアン・カヌーかシーカヤックかのどちらかを選ぶ描写。それぞれのメリット・デメリットなどが詳しく説明されていて興味深い。
そこから湖上の旅がはじまる。長い水上の移動や、毎日のキャンプ・調理の様子、美しい朝焼けの風景描写にワクワクする。一方、蚊の襲来や荒く波立つ湖面への対処も必要になってくる。ビーバーダムやハクトウワシの巣の撮影、釣りの描写も楽しい。
時間が経つにつれ、少しずつ自然が体にしみこんでいく様子が心地良さそうだ。読書中は水上ソロ・キャンプ旅の勉強になると共に、脳内ポーテージを存分に楽しむことができた。
しかし、この本は前半の水上の旅だけでなく、その後もすこぶる面白い。前半で示された様々なテーマや、著者の目標がどうなっていくのか・・・、気になってどんどん読み進めてしまうのだ。
例えば、
・本の冒頭で、出会ったと書かれている有名写真家の弟子になれるのか?
・もうひとりの伝説の極致探検家とはどういう人なのか?
・オオカミの写真を撮りたいという夢もあったが、それは実現したのか?
そして、これらの疑問が想像以上に様々な方向に回収されていき、「こんな展開になっていくのか!」と、後半もさらに読書に熱中させられる。
旅で出会う人々から受ける数々の親切にも、ほっこりした暖かい気持ちになる。森のそばに住む人々のリアルな生活描写も、その場の情景が目に浮かぶほど具体的で楽しめた。
著者の写真撮影に試行錯誤する様子も描かれている。どういう被写体や風景を、どういう角度・構図で、どんな時間帯に、どういうカメラ設定で撮ればいいのか・・・。読書の過程で、写真撮影にも興味が湧いてくる。本の冒頭に掲載された数多くの写真も、読後に再度眺めると、違うように見えてくるのがおもしろい。
そして旅の終わりに近づいたころ、予想もしていなかった、ある大きな出来事に遭遇する。この出来事が、読書の最後に緊張感とドキュメンタリーならではの生々しさを与える。
ネタバレになるのでこれ以上語らないが、旅がどう進展していくのか、ぜひ読んで確かめてほしい!
それにしても、若いころの著者の、まぶしいくらいの情熱に魅了される。同年代の20代前半の人にも読んでほしいが、そんな時代をとっくに過ぎ、日々の慌ただしい生活にヘトヘトになっている皆様にも、ぜひ読んでほしい。青春の心のほとばしりを感じながら、水上旅の開放感を味わうことができるはずだ。
Amazon.co.jp: そして、ぼくは旅に出た。 はじまりの森 ノースウッズ (文春文庫) 電子書籍: 大竹 英洋: Kindleストア
実際のカヌー・ルート
なお、北米で、本書のようなカヌー旅は(冒険家のような人々のみならず)、広く一般の人々にも親しまれているアクティビティだ。
例えば、下のようなウェブサイトやガイドブックに、多数のコースが掲載されている。1~3日くらいの初心者コースもあるようなので、アメリカやカナダへの旅行中に、カヌーを借りてチャレンジしてみてもいいかもしれない。
■ウェブサイトの例(※本書の舞台となったエリアの場合)
■カヌーコース・ガイドブックの例(※カナダ「アルゴンキン州立公園」の場合)
Amazon | A Paddler’s Guide to Algonquin Park | Callan, Kevin | Canada
読書中におすすめの音楽
最後に、本書を読む際のBGMとして、Dan Gibsonの「Canoe Country」というアルバムを全力でオススメしたい。北米での静かなカヌー旅を想像させる音楽描写として極めて完成度が高い。アコースティックギターの演奏をメインにした平和でまったりとした音楽と、森&パドルの環境音に癒されながら、読書に没入してほしい。
Amazon Music – Dan Gibson’s SolitudesのCanoe Country – Amazon.co.jp
コメント