『生物学探偵 セオ・クレイ 森の捕食者』(アンドリュー・メイン著/2019年)
生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者 (ハヤカワ・ミステリ文庫) | アンドリュー メイン, 唐木田 みゆき | 英米の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon
内容紹介と感想(ほぼネタバレなし)
※以下、重要なネタバレはないが、序盤辺りの展開について軽く触れている点、ご了解いただきたい。
本作は、アメリカのモンタナ州を舞台にしたミステリー。生物情報工学を専門とする大学教授の主人公が、自身の教え子であった女学生の殺人に対する容疑者として尋問を受けるところからストーリーが始まる。検視の結果、熊の襲撃による死ということで、主人公の疑いは晴れ、襲撃した熊も仕留められる。
これで一件落着かと思いきや、主人公はちょっとした好奇心から事件を再調査し始め、女学生を襲撃したのは仕留められたその熊ではないんじゃないか ― つまり、襲撃した熊はまだ野放しなのではないか ― との疑いを持つ。
そこから、主人公は真実を明らかにしたい一心で、独自に調査を始めていくが、それ以上の隠れた真相が少しずつあらわになっていく・・・
この作品は、その「調べていく過程」が非常におもしろい。主人公は、推理し、仮設を立て、足を使って聞き込みや現場調査を丹念に行っていく。そのうえでそれらの仮説を証明しながら、少しづつ真相に近づいていく。
独自性があるのは、調査の過程で、データ分析のソフトウェアや生物学の知見をフルに活用していく点だ。例えば、この女学生以外にも同じような襲撃にあい、亡くなった人等をソフトウェアでマッピングしていき、襲撃エリアを絞り込んでいく。
ストーリーのあらゆる段階で、生物学やデータ分析の知見がふんだんに披露され、読んでいて知的におもしろい。また、それら知見のそれぞれが、事件を解決していく重要な鍵にもなり、なるほど!と思わせてくれるのだ。
また、ネタバレを避けるために具体的な言い方ができないのだが…、様々な動植物に囲まれているモンタナの大自然ならではの設定が、ミステリーの謎を構成するギミック的要素としてうまく活かされている点も素晴らしいと感じられた。
作品で描かれる土地も大好きな要素だ。舞台はモンタナ州の谷あいにある過疎化したスモールタウン。ダイナーやモーテルといったアメリカの典型的ロケーションを行ったり来たりしつつ、様々な住民と人間関係を作りながら真相を探っていく。実際にその場でコツコツと調査し、探索している雰囲気を感じることができ、味わい深い。(※ドラマ「ツイン・ピークス」のような舞台設定が好きな人には合う世界観かもしれない。)
また、警官の汚職や、多数の行方不明者の存在、売春、薬物問題(メタンフェタミン)といった、アメリカの現実の社会問題が、物語の背景として描かれる点も興味深かった。
主人公はヒーローのような人物像ではなく、人間関係が苦手で不器用な側面もあるが、這いつくばってでも真相に向かっていくという人物像。事件を早く終わらせたい警察や、地元の人々らと対立し、揉めて、何回も痛い目にあいながら、粘り強く真実を追い求めるのを見ていると、もどかしくも、応援したくなってくる。その中で、ロマンス要素も含め、味方になってくれる人も出てくるのがせめてもの救いだ。
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